人民元の切り上げを進められない中国国内の事情とは

FX投資家が注目する人民元の切り上げ問題をとりあげます。中国の金利引き上げや人民元の切り上げ観測がおこるたび為替相場では円買い要因として主にドル円が変動します。FX投資家にとって米国経済の行方を探ると同じくらい、中国の人民元切り上げ問題は重要です。当サイトで今後の中国経済、金融動向をしっかり把握してください。FX投資家の方々の幸運をお祈りいたします。

人民元の切り上げを進められない中国国内の事情とは

11月上旬に韓国・ソウルで開催された、G20全要20力国・地域)首脳会合では、通貨の切り下げ競争防止に加え、不均衡是正のための「参考指針」を用意し、それを2011年前半の財務相ッ甲央銀行総裁会議で議論することで合意した。

 

中国の産業構造

 

ここで取り上げられた「参考指針」とは、各国・地域の経常収支のGDP(国内総生産)比率を一定の範囲内に収める数値基準のことで、4%以下を目指すと伝えられてる。0年の中国の経常収支のGDP比率は5・8%。IMFによると、10年も4・7%程度にとどまると予想されており、この「参考指針」の真意が中国に人民元の切り上げを促すところにあるのは、火を見るより明らかだ。経常黒字の抑制は中国の政策と一致する。

 

しかしこの「参考指針」に対し、中国が一方的に「抵抗勢力」になるとは考えがたい。米国主導のルール作りに条件反射的に抵抗するかもしれないが、「参考指針」は、中国政府が目指す政策の方向性とはほぼ一致しているためだ。今後、「参考指針」を外圧として中国が人民元改革を加速させる可能性が、むしろ高くなってきたと考えられる。
この背景には「第12次5ヵ年計画」がある。10月下旬に開催された共産党中央委員会全体会議では、内需拡大、とりわけ個人消費の拡大が、11年から始まる同5ヵ年計画の最優先課題とト首て決定された。

 

ここ数年、インフラ整備や不動産開発、個んハ消費などの中国需要を獲得するた屹、グローバル企業が次々と中国市振に参入し、中国の内需拡大を進展答せている。したがって、同5ヵ年計川画が内需拡大に拍車をかけること7 なれば、中国にとって「参考指針」は必ずしも達成が難しいハードルではなくなるだろう。

 

ただし、人民元の為替レート上昇のスピーどや幅について、中国当局は依然慎重な姿勢を崩さず、大幅な切り上げを求める米国との確執が続く公算も太きい。「自主的、漸進的」という原理原則を掲げている以上、米国が圧力をかけるほど、中国政府がかたくなになるのは、過去の経験から証明済みだ。以下二つの国内事情から、中国当局が人民元の着地点を模索すためには時間がかかると覚悟すべきだろう。

 

その一つは、中国の輸出構造である。先進国に比べ、豊富かつ安価な労働力を動員し、加工組み立てを柱とする中規模の輸出構造が価格競争力の強みであることはいうまでもない。しかし05年以降、中国の貿易黒字の半分以上は中国に進出している外資系企業が稼ぎ出したものだ。例外もあるが、一般的には民族系企業に比べて技
術水準が高い外資系企業のほうが人民元高に対する抵抗力が強いはずだ。だとすれば、人民元レートは体力の強い外資系企業に合わせるべきか、体力の弱い民族系企業に合わせるべきか、政治的選択は難しい。

 

また改革・開放以降、内陸部と沿海部の所得格差が拡大してきた主因として、中国の輸出の8割以上(金額ペース)が沿海部に集中していることが指摘されている。人民元が上昇すれば、これまで人民元安の最大の受益者だった沿海部が影響を受けかねない。一方、人民元高は国内の購買力向上につながるため、内陸部は歓迎するはずだ。政策の軸足を沿海部に置くべきか、それとも内陸部に置くべきか、中央政府にとって難題であるに違いない。

 

最近、中西部大開発の加速など、中m八政府が内陸部重視の姿勢を鮮明化させていると受け止められているが、沿海部軽視という理解は短絡的だ。内陸部の大開発は将来的に成功するかもしれないが、中国経済の牽引車は、依然沿海部だからだ。

内需拡大→人民元高で資源乱獲に走り出す

もう一つは、中国の就業構造である。前述したとおり、中国の貿易黒字のうち、外資系企業がその半分以上を稼ぎ出しているため、貿易摩擦や通貨安競争など、ある意味では、中国は外資系企業を守るための「代理戦争」をしているにすぎない。しかし、「世界の工場」化によって中国国内に大量の雇用機会がもたらされたことも、否定できない事実だ。

 

1994年1月1日、中国が人民元の対米ドルレートを33%切り下げた。これは投資ブームや貿易赤字の拡大に歯止めをかけるだけの措置ではなかった。92年春、郵小平氏の「南巡講話」を契機に、全国で空前の不動産開発ブームが起こる。食糧など配給制の廃止が農村労働力の出稼ぎブームに火をつけ、4000万人が都市部になだれ込む「民工潮」現象が発生した。その直後、ハイパーインフレと不動産バブルを沈静化させるため、朱鎔基副総理(当時)が融資を止めるなど厳しい引き締め措置を発動、出稼ぎ労働者の受け皿となっていた建設現場が次々と作業休止に追い込まれた。この雇用危機を乗り越えるために考え出されたのが、大幅な切り下げによる輸出産業の振興だった。

 

中国の産業別名目GDPと就業者数の構成比を示すものだが、名目GDPに占める第1次産業の比率が10%程度であるにもかかわらず、就業者数に占める同比率が約40%と、農村部では大量の余剰人員を抱えていることが見て取れる。これまでは、輸出産業を中心とする第2次産業と第3次産業がその受け皿となってきたが、人件費の上昇や産業構造の高度化などを受け、製造業の雇用創出力が低下している。内陸部大開発や個人消費の拡大に伴い、内陸部やサービス産業に対する期待は高いが、その効果が持続するかどうか、政府は慎重に見守っているのではないかと考えられる。

 

短期的には、輸入インフレを防ぐため、中国は人民元の上昇ペースを加速させる可能性が高いが、中長期的には、人民元の上昇基調が続くかどうかは内需拡大の進展にかかっている。一方、「第12次5ヵ年計画」で、中国の内需拡大が成功すれば、数年後、先進国が高インフレに直面するかもしれない。13億人の需要を満たすため、強い人民元を武器に世界中から資源やエネルギー、食糧などを買いあさり、世界的な物価上昇を引き起こす可能性があるからだ。中国のパワーが一段と増大するのは杞憂ではなさそうだ。